2018年度セミナー
今年度前期は水曜日午後1時(追記:午後1時30分に変更)からセミナーを行います。 このセミナーの他にも、毎週月曜日10時30分から本郷理学部4号館3階1320号室にて行われる統計力学セミナーにも参加しています。
日程 | 時間 | 講演者 | 演題・要旨 |
04月25日(水) | 13:00 |
中村統太さん (芝浦工大) |
ガウスカーネル法を用いて生データから臨界点を求める、物理量を求める 要旨 |
05月02日(水) | 13:00 |
藤田浩之さん (東大・押川研) |
トポロジカル光波による磁性体制御 要旨 |
05月09日(水) | 13:00 |
池田達彦さん (東大物性研) |
Floquet-Bloch理論による固体高次高調波の定式化と解析 要旨 |
05月23日(水) | 13:00 |
鳩村拓矢さん (東大・宮下研) |
量子アニーリングにおける断熱時間発展の加速 要旨 |
05月30日(水) | 13:00 |
長谷川雅大さん (東大・加藤研) |
単一準位量子ドットを介した断熱ポンピングの理論解析 要旨 |
06月20日(水) | 13:30 |
白井達彦さん (東大物性研) |
パーシステントホモロジーによるガラスの剛性のミクロな記述 要旨 |
06月27日(水) | 13:30 |
山口裕樹さん (東大・沙川研) |
成体組織恒常性のマクロ非平衡理論 要旨 |
07月04日(水) | 13:30 |
吉見一慶さん (東大物性研) |
スパースモデリングを用いた量子モンテカルロデータの解析接続 要旨 |
07月11日(水) | 13:30 |
Savannah Garmon さん (大阪府立大) |
Non-Markovian dynamics revealed at the bound state in continuum 要旨 |
07月18日(水) | 13:30 |
東川翔さん (東大・上田研) |
古典非線形方程式の Floquet-Magnus 展開と磁性体のダイナミクスへの応用 要旨 |
07月25日(水) | 13:30 |
仲山将順さん (東大理) |
Choi-Jamiolkowski 状態とグローバーアルゴリズムを用いた量子ゲートの学習 要旨 |
10月19日(金) | 13:30 |
島田尚さん (東大工) |
A complexity-robustness relation in evolving open systems 要旨 |
11月02日(金) | 14:30 |
伊與田英輝さん (東大工) |
Effective dimension, level statistics, and integrability of Sachdev-Ye-Kitaev-like models 要旨 |
11月16日(金) | 13:30 |
中川大也さん (理研) |
Non-Hermitian Kondo effect in ultracold alkaline-earth atoms 要旨 |
11月21日(水) | 13:30 |
伊藤康介さん (浙江大) |
Generalized quantum measurements defining work distribution compatible with fluctuation theorems 要旨 |
12月07日(金) | 13:30 |
Andrew K. Harterさん (東大生研) |
Exploring PT-symmetric systems by use of quantum simulations 要旨 |
12月21日(金) | 13:30 |
Gong Zongpingさん (東大・上田研) |
Topological Phases of Non-Hermitian Systems 要旨 |
01月11日(金) | 13:30 |
金子和哉さん (東大・沙川研) |
Work Extraction from a Single Energy Eigenstate 要旨 |
03月04日(月) | 13:30 |
松崎雄一郎さん (産総研) |
Quantum remote sensing with asymmetric information gain 要旨 |
第01回
講師:中村統太さん(芝浦工大)日時:04月25日(水)午後1時〜
演題:ガウスカーネル法を用いて生データから臨界点を求める、物理量を求める
要旨:臨界現象を解析する有限サイズスケーリング法をカーネル法を用いて自動化する手法が原田 [1] によって提案されている。この手法は、スケーリング解析以外にも様々な応用が考えられる。その一つとして、エネルギーや磁化の生データから直接、臨界点や臨界指数を求める手法 [2] をここでは紹介する。話のポイントは、生データを表現するモデル関数がガウス関数の重ね合わせとして求まることにある。転移点はモデル化出来ない特異点として求まり、モデル関数の微分から高次の物理量や臨界指数も求まる。
まず、有限サイズスケーリング法と correction-to-scaling などの問題点について説明する。次に、カーネル法の導入を行い、スケーリング解析への応用をレビューする。その後、データのモデル化による解析法を紹介する。
参考文献
[1] K. Harada, Phys. Rev. E 84, 056704 (2011).
[2] T. Nakamura, Phys. Rev. E 93, 011301(R) (2016).
第02回
講師:藤田浩之さん(東大・押川研)日時:05月02日(水)午後1時〜
演題:トポロジカル光波による磁性体制御
要旨:高強度・超短パルスレーザーの発生技術の進歩により、光による物質の観測・制御の高度化が進んでいる。レーザー駆動で実現する強い非平衡状態の理解とその機能開発は、物性物理学におけるフロンティアの1つとして、実験・理論の両面から活発に研究が進められている。
我々は、ガウシアンレーザーを前提としてきた従来の光物性物理学を、非自明な空間的トポロジーを持ったレーザー光であるトポロジカル光波の利用によって拡張する可能性を模索している [1-3]。トポロジカル光波、特に光渦は、2014年のノーベル賞の受賞対象となった STED 顕微鏡の基盤技術であり、光学分野において活発な研究が成されている。しかし、物性物理学分野においてはその実態が周知されておらず、光物性物理の研究者でさえ、円偏光レーザーと混同しているケースが多々見られる。我々はこれまで、光渦の特異な空間的構造を利用した、磁性体へのトポロジカル欠陥の書き込み [1] や、光渦が運ぶ軌道角運動量の磁性体への転写 [2] の可能性を模索してきた。また最近では、トポロジカル光波の一種である偏光渦を利用した新たな物性測定手法の開発 [3] に取り組んでいる。本セミナーでは、我々のこれまでの取り組みと今後の展望について発表する。
参考文献
[1] H. Fujita and M. Sato, Phys. Rev. B 95, 054421 (2017).
[2] H. Fujita and M. Sato, Phys. Rev. B 96, 060407(R) (2017).
[3] H. Fujita and M. Sato, Submitted.
第03回
講師:池田達彦さん(東大物性研)日時:05月09日(水)午後1時〜
演題:Floquet-Bloch理論による固体高次高調波の定式化と解析
要旨:高強度レーザーパルスを気体に照射すると発生する高次高調波は、典型的な非線形光学過程によって生じ、その発生機構やアト秒科学への応用について詳しく研究がなされてきた。近年、固体からの高次高調波発生が観測され [1]、その発生機構について活発に議論がなされている。
本セミナーでは、まず時間・空間の周期性を反映したFloquet-Bloch波動関数 [2] を用いた固体高次高調波の理論の定式化 [3] について議論する。続いて簡単な模型を用いた高次高調波スペクトルの解析結果を示す。特に、高調波の次数が上がっても強度が落ちないプラトーの発生機構やカットオフ次数の振る舞いについて議論する。
参考文献
[1] S. Ghimire et al., Nature Phys. 7, 138 (2011).
[2] F. H. M. Faisal et al., Phys. Rev. A 56, 748 (1997).
[3] T. N. Ikeda, K. Chinzei and H. Tsunetsugu, in preparation.
第04回
講師:鳩村拓矢さん(東大・宮下研)日時:05月23日(水)午後1時〜
演題:量子アニーリングにおける断熱時間発展の加速
要旨:量子アニーリングとは組合せ最適化問題をヒューリスティックに解くアルゴリズムの一つである [1]。この手法はD-Wave Systemsによる実装以来、実社会への応用も含めて大いに注目を集めている [2]。実用性のためには短い時間で実行できることが重要になってくるが、量子アニーリングは断熱時間発展に基づいているため正しい解を得るためには十分にゆっくりと時間発展させる必要がある。断熱時間発展の加速と呼ばれる理論では、このような断熱時間発展を任意の速さであたかも実現しているかのように状態を制御することができる [4]。本セミナーでは断熱時間発展の加速に関する新たなアイデアとその量子アニーリングへの応用、またそれがどのようなときにうまくいくかについて発表する [5]。
参考文献
[1] T. Kadowaki and H. Nishimori, Phys. Rev. E 58, 5355 (1998).
[2] 例えば東北大学量子アニーリング研究開発室のナレッジベース「T-Wave」 [3] の解説記事集.
[3] ナレッジベース「T-Wave」.
[4] (レビューとして)E. Torrontegui, et al., Adv. At. Mol. Opt. Phys. 62, 117 (2013).
[5] T. Hatomura and T. Mori, in preparation.
第05回
講師:長谷川雅大さん(東大・加藤研)日時:05月30日(水)午後1時〜
演題:単一準位量子ドットを介した断熱ポンピングの理論解析
要旨:系の緩和時間よりもゆっくりと周期操作を行うことで、熱や電子を熱浴から熱浴へ運ぶ現象を断熱ポンピングという [1]。断熱ポンピングは、その駆動速度に依らず一周期でポンプされる熱や電子の量が一定であるという特性を持ち、特に量子ドット系での断熱ポンピングは、ナノスケール量子回路の電流標準等のデバイス応用が期待されている。断熱ポンピングの駆動速度は系の緩和時間によって制限されるため、デバイスとしての駆動を速くするためには、電子浴と量子ドット間の結合が強い領域で生じる緩和時間を短い量子ドットのコヒーレント輸送を利用すべきである。本セミナーでは、コヒーレント輸送領域における量子ドットを介した、断熱電荷ポンピングの理論研究について、特に以下の2つのテーマについて議論する。
- 量子ドット内の電子間にクーロン相互作用が働く場合に生じる電子相関効果がどのようにポンピングに影響するか? [2]
- 電子浴のバンド構造はポンプ電荷の量子化される値をどのように変化させるか? [3]
参考文献
[1] D. J. Thouless, Phys. Rev. B 27, 6083 (1983).
[2] M. Hasegawa and T. Kato, J. Phys. Soc. Jpn. 87, 044709 (2018).
[3] M. Hasegawa, É. Jussiau, and R. S Whitney, in preparation.
第06回
講師:白井達彦さん(東大物性研)日時:06月20日(水)午後1時30分〜
演題:パーシステントホモロジーによるガラスの剛性のミクロな記述
要旨:ガラスの剛性とミクロな構造との関係について議論する。ガラス状態は、ある程度長い空間スケールでは不規則な構造をとるように見える。その一方で局所的なクラスター構造によってガラス状態を特徴づける可能性が指摘されている [1]。この構造は液体状態とは異なるため、ガラスの剛性の起源との関係が期待される。
本セミナーでは、まずそのクラスター構造を特徴づけるための手法として、近年提案されたパーシステントホモロジーと呼ばれる手法について説明を行う [2]。次に、その手法を用いて得られた、応力・歪み曲線とミクロな構造との関係について紹介する。本研究は中村氏(産総研)との共同研究である [3]。
参考文献
[1] H. W. Sheng, W.K. Luo, F.M. Alamgir, J.M. Bai and E. Ma, Nature 439, 419 (2006).
[2] 「タンパク質構造とトポロジー:パーシステントホモロジー群入門」平岡裕章 / Y. Hiraoka, T. Nakamura, A. Hirata, EG Escolar, K. Matsue and Y. Nishiura, PNAS 113, 7035 (2016).
[3] T. Shirai and T. Nakamura, arXiv:1712.09785
第07回
講師:山口裕樹さん(東大・沙川研)日時:06月27日(水)午後1時30分〜
演題:成体組織恒常性のマクロ非平衡理論
要旨:哺乳類成体組織では細胞が絶えず入れ替わっており、細胞分裂と細胞死の釣り合いにより組織が維持される(恒常性)。この釣り合いがどのような機構により維持されるのかはほとんど理解されていなかったが、近年の実験技術の発展により、その一端が明らかになってきている。Clayton らは細胞染色実験とスケーリング理論から、細胞自律的に恒常性が維持されるとした [1]。さらに最近になって、Mesa らはライブイメージング法を用いて、隣接細胞間の相互作用により恒常性が維持されると報告している [2]。我々は、細胞密度によるフィードバックにより恒常性維持機構を定式化し、マクロ非平衡確率過程として記述した。細胞間相互作用の到達距離が有限の場合に、細胞集団ダイナミクスが短時間領域における細胞自律的な振る舞いから動的クロスオーバーし、長時間領域の振る舞いは voter モデルにより記述されることを明らかにした [3]。
本講演では、まず近年の実験により明らかになった成体組織恒常性における細胞集団ダイナミクスの統計則と非平衡統計力学モデルの関係をまとめる。次に、恒常性における細胞多体系をマクロな非平衡確率過程として定式化し、数値解析の結果として動的クロスオーバーを示した上で、長時間極限における有効ダイナミクスが voter モデルにより記述されることを説明する。
参考文献
[1] E. Clayton et al., Nature 446, 185 (2007).
[2] K. Mesa, K. Kawaguchi et al., bioRxiv:155408 (2017).
[3] H. Yamaguchi, K. Kawaguchi and T. Sagawa, PRE 96, 012401 (2017).
第08回
講師:吉見一慶さん(東大物性研)日時:07月04日(水)午後1時30分〜
演題:スパースモデリングを用いた量子モンテカルロデータの解析接続
要旨:多体電子系やスピン系に対する量子モンテカルロシミュレーションでは、虚時間データを実振動数へと解析接続することで、一粒子スペクトルや磁気励起スペクトルなどの動的物理量が得られる。一方、解析接続で解くべき方程式は、悪条件であることが知られており、その解はノイズに非常に影響をうける。したがって、統計誤差を含むモンテカルロデータの解析接続では、信頼うる結果を得ることが困難となる。この問題を解決するため、最大エントロピー法や統計的手法を用いた解析法などが提案されているが、決定的な解析手法はまだ確立されていない現状にある。
近年、我々はスパースモデリングを応用した解析接続法を提案した [1]。スパースモデリングは多変数の最適化問題に対して、本質的なパラメーターのみを選択することで、過学習を避けた予測を可能とする手法である。 本手法を虚時間データの解析接続に用いることで、自動的にノイズからの影響が少ない基底(圧縮基底)を選択し、ノイズに強い解析接続を行う。講演では、スパースモデリングの導入と量子モンテカルロデータの解析接続への応用に加え、本手法を実装したオープンソースソフトウェア SpM [2] について紹介する。さらに、最近取り組んでいる圧縮基底を応用した計算手法、また関連ソフトウェアの開発状況についても併せて簡単に紹介する予定である [3]。
参考文献
[1] J. Otsuki, M. Ohzeki, H. Shinaoka, and K. Yoshimi, Phys. Rev. E 95, 061302(R) (2017)., 固体物理 vol. 53, No. 4, 大槻純也・大関真之・品岡寛・吉見一慶.
[2] https://github.com/j-otsuki/SpM.
[3] H. Shinaoka, J. Otsuki, M. Ohzeki, and K. Yoshimi, Phys. Rev. B 96 , 035147 (2017).
H. Shinaoka, J. Otsuki, K. Haule, M. Wallerberger, E. Gull, K. Yoshimi, and M. Ohzeki, Phys. Rev. B 97, 205111 (2018).
N. Chikano, J. Otsuki, and H. Shinaoka, arXiv:1803.07257 (2018).
第09回
講師:Savannah Garmon さん(大阪府立大)日時:07月11日(水)午後1時30分〜
演題:Non-Markovian dynamics revealed at the bound state in continuum
要旨:We propose a methodical approach to controlling and enhancing deviations from exponential decay in quantum and optical systems by exploiting recent progress surrounding another subtle effect: the bound states in continuum, which have been observed in optical waveguide array experiments within this past decade. Specifically, we show that by populating an initial state orthogonal to that of the bound state in continuum, it is possible to engineer system parameters for which the usual exponential decay process is suppressed in favor of inverse power law dynamics that are typically extremely difficult to detect in experiment. We demonstrate our method using a model based on an optical waveguide array experiment, and further show that the method is robust even in the face of significant detuning from the precise location of the bound state in continuum.
参考文献
[1] E. Torrontegui, J. G. Muga, J. Martorell, and D. W. L. Spring, Adv. Quant. Chem. 60, 485 (2010).
[2] C. W. Hsu, B. Zhen, A. D. Stone, J. D. Joannopoulos, and Soljačić, Nat. Rev. Mater. 1, 16048 (2016).
[3] S. Weimann, Y. Xu, R. Keil, A. E. Miroshnichenko, A. Tunnermann, S. Nolte, A. A. Sukhorukov, A. Szameit, and Y. S. Kivshar, Phys. Rev. Lett. 111, 240403 (2013).
[4] S. Garmon, T. Petrosky, L. Simine, and D. Segal, Fortschr. Phys. 61, 261 (2013).
第10回
講師:東川翔さん(東大・上田研)日時:07月18日(水)午後1時30分〜
演題:古典非線形方程式の Floquet-Magnus 展開と磁性体のダイナミクスへの応用
要旨:近年非共鳴周期外場による孤立量子系のデザインとコントロール、いわゆる Floquet engineering が大きな注目を集めている [1,2]。これは Floquet の定理によって非平衡系の問題が平衡系の問題に帰着され、Floquet-Magnus 展開により対応する平衡系の解析が簡単化されるためである。一方で、古典系における Floquet-Magnus 展開は Hamilton 系などの量子系との対応が単純な系でしか知られていない [3]。これは古典(開放)系の支配方程式は一般に非線形であり、かつ有限温度の場合はランダム変数により周期的でさえなくなるため、Floquet の定理が適用できないためである [2]。このため、古典系においても Floquet-Magnus 展開のような系統的な摂動展開が存在するのかどうかは非自明な問題だった。
この問題に対して、我々は(確率)微分方程式で記述される古典(開放)系に対する Floquet-Magnus 展開を構成した [4]。ベンチマークとして磁性体のダイナミクスの現象論的方程式である確率的 Landau-Lifshitz-Gilbert 方程式の数値計算を行い、Floquet-Magnus 展開から得られる有効的な確率的 Landau-Lifshitz-Gilbert 方程式が、高周波領域で元の方程式のダイナミクスをよく近似できることを確かめた。特に、有効的な方程式は短時間のダイナミクスだけでなく長時間後の非平衡定常状態も定量的に近似できており、孤立量子系とは対照的に古典開放系の Floquet-Magnus 展開は収束級数となっていることが示唆される。
本研究は藤田浩之氏(東大物性研・押川研)、および佐藤正寛氏(茨城大)との共同研究である。
参考文献
[1] A. Eckardt, Rev. Mod. Phys. 89, 011004 (2017).
[2] M. Bukov, L. D'Alessio, and A. Polkovnikov, Advances in Physics 64, 139 (2015).
[3] T. Mori, arXiv preprint arXiv:1804.02165 (2018).
[4] S. Higashikawa, H. Fujita, and M. Sato, in preparation.
第11回
講師:仲山将順さん(東大理)日時:07月25日(水)午後1時30分〜
演題:Choi-Jamiolkowski 状態とグローバーアルゴリズムを用いた量子ゲートの学習
要旨:量子コンピューターにおける基本的な入出力関係は量子ゲートによって表現される。とある量子ゲートを何度も呼び出すことによりその入出力関係を学習することは、機械学習の問題設定を量子系に拡張する方向性の一つである。通常の機械学習で入出力関係を学習する際には、ゲートを作用させる前の状態とした後の状態のペアを大量に用意し(教師データ)それを使って入出力関係を再現する。教師データの数が少なくても高い精度を出せる学習手法ほど、効率的な学習手法と言える。量子系においては、量子もつれ状態を用いることにより、1つの量子状態がすべての入出力関係の情報を持つようにできる。これを、Choi-Jamiolkowski 状態といい、これを用いることにより教師データの数を圧縮することが期待される。
量子ゲートの学習において、量子ゲートが Harr 測度によってランダムに与えられたとき、この Choi-Jamiolkowski 状態を利用することで、与えられた教師データの数に対して、平均の忠実度が他のどの手法より高くなるように学習したゲートを再現する方法 [1] が知られている。この手法は、Choi-Jamiolkowski 状態を大量に準備し、集団測定をすることによって、量子ゲートのパラメーターを推定する手法である。しかし、この手法は Harr 以外の任意の確率分布で量子ゲートが与えられる場合に、最高の忠実度を保証するものではない。さらにこの手法は解析が難しく、忠実度がどのように教師データのサイズや量子ゲートの作用するヒルベルト空間の次元に依存するかは明らかではない。
他にも量子ゲートの学習方法には、ポート型量子テレポーテーション [2] や量子エミュレーター [3] という手法があり、それらは Harr 測度でない場合でも再現された量子ゲートの誤差を教師データのサイズやヒルベルト空間の次元を用いて評価することができる。ただし、それらは与えられた量子ゲートを再現できても、その量子ゲートの逆変換や時間反転変換のいずれかが再現可能ではない。これらの逆変換や時間反転変換は、先の集団測定による古典パラメーター推定の手法では教師データから再現できるものである。
我々は Choi-Jamiolkowski 状態を指数関数化アルゴリズム [4] のリソースとして使うことによって、Grover アルゴリズム [5,6] が利用できることに着目し、Harr 測度でない場合でも先行研究と同程度の精度で学習したゲートを再現する方法を発見した。この手法を用いると、Choi-Jamiolkowski 状態の教師データから逆変換や時間反転変換も再現可能であることがわかった。
参考文献
[1] A. Bisio, G. Chiribella, G. M. D'Ariano, S. Facchini, and P. Perinotti, Phys. Rev. A 81, 032324 (2010).
[2] S. Ishizaka and T. Hiroshima, Phys. Rev. A 79, 042306 (2009).
[3] I. Marvian and S. Lloyd, arXiv:1606.02734 (2016).
[4] S. Lloyd, M. Mohseni, and P. Rebentrost, Nat. Phys. 10, 631-633 (2014).
[5] L. K. Grover, arXiv:quant-ph/9605043 (1996).
[6] M. Szegedy, arXiv:quant-ph/0401053 (2004).
第12回
講師:島田尚さん(東大工)日時:10月19日(金)午後1時30分〜
演題:A complexity-robustness relation in evolving open systems
要旨:An important and universal feature of real large complex systems, such as social, economic, ecological, and biological systems, is that they are open. The complex structure they have today has been acquired through the successive introductions of new elements, and they are at least persisting against the further introduction process. Those systems indeed sometimes grow, but also sometimes collapse. Therefore why and when, in general, we can have such open and complex systems is a fundamental question.
In this talk, I will introduce our recent approach to this classical problem based on a very simple graph model. I will show that this model gives either continuous growth to a infinite size or stagnation in system size, depending on the model's unique parameter m: the average number of weighted links per node. The system can grow only if the connection is moderately sparse, i.e. 4 < m < 19. We can further find that this transition originates from an essential balance of two effects: although having more interactions makes each node robust, it also increases the impact of the loss of a node [1, 2]. This novel relation might be a origin of the moderately sparse (average degree 10) network structure ubiquitously found in real world.
The interaction in many real systems, however, often has intrinsically bidirectional nature like mutual symbiosis, predation, and competition in ecology. I will introduce our study on the model with bidirectional interactions [3].
参考文献
[1] T. Shimada, Scientific Reports Vol. 4, 4082 (2014).
[2] T. Shimada, in Springer monograph Mathematical Approaches to Biological Systems: networks, Oscillations and Collective Motions, p. 95-117 (Springer, 2015).
[3] F. Ogushi, J. Kertész, K. Kaski, and T. Shimada, Scientific Reports Vol. 7, 6978 (2017).
第13回
講師:伊與田英輝さん(東大工)日時:11月02日(金)午後2時30分〜
演題:Effective dimension, level statistics, and integrability of Sachdev-Ye-Kitaev-like models
要旨:The Sachdev-Ye-Kitaev (SYK) model attracts attention in the context of information scrambling, which represents delocalization of quantum information and is quantified by the out-of-time-ordered correlators (OTOC). The SYK model contains N fermions with disordered and four-body interactions. Using the fact that the two-point and four-point functions can be calculated analytically in the limit of large-N and low-energy limit, it is shown that the SYK model exhibits the fastest scrambling and saturates "the chaotic bound". The SYK model has been investigated also in condensed matter physics because of its relevance to non-Fermi liquid, quantum criticality, and the effect of disorder in strongly correlated systems.
Here, we introduce a variant of the SYK model, which we refer to as the Wishart SYK model. We investigate the Wishart SYK model for complex fermions and that for hard-core bosons. We show that the ground state of the Wishart SYK model is massively degenerate and the residual entropy is extensive, and that the Wishart SYK model for complex fermions is integrable. In addition, we numerically investigate the OTOC and level statistics of the SYK models. At late times, the OTOC of the fermionic Wishart SYK model exhibits large temporal fluctuations, in contrast with smooth scrambling in the original SYK model. We argue that the large temporal fluctuations of the OTOC are a consequence of a small effective dimension of the initial state. We also show that the level statistics of the fermionic Wishart SYK model is in agreement with the Poisson distribution, while the bosonic Wishart SYK model obeys the GUE or the GOE distribution.
参考文献
[1] E. Iyoda, H. Katsura, and T. Sagawa, Phys. Rev. D 98, 086020 (2018).
第14回
講師:中川大也さん(理研)日時:11月16日(金)午後1時30分〜
演題:Non-Hermitian Kondo effect in ultracold alkaline-earth atoms
要旨:Isolated quantum systems are governed by unitary dynamics and described by Hermitian Hamiltonians, yet no quantum system is completely isolated in reality and dissipation is ubiquitous in nature. The non-unitary dynamics of open quantum systems permits an effective description based on non-Hermitian Hamiltonians under an appropriate condition [1,2]. While various quantum phenomena inherent in open systems have been discovered in single-particle non-Hermitian quantum mechanics, many-body physics with interparticle interactions largely remains unexplored, partly due to the lack of feasible experimental realizations. Thus, it is an important open problem to search for hitherto unnoticed quantum many-body effects in non-Hermitian systems and their experimental platforms.
In this talk, we show that an experimental setup with ultracold alkaline-earth atoms [3] provides a non-Hermitian extension of a paradigmatic quantum many-body effect: the Kondo effect [4]. In this system, inelastic collisions and the associated atom loss have been experimentally observed. Using a quantum master equation approach, we derive a non-Hermitian Kondo Hamiltonian that describes the effect of the inelastic collisions with a complex-valued Kondo interaction. By renormalization-group (RG) analysis of the non-Hermitian Kondo model, we reveal that the non-Hermiticity induces a quantum phase transition associated with anomalous reversion of RG flows which violates the g-theorem of unitary theory. Furthermore, we find an exact solution of the non-Hermitian Kondo model by using a generalized Bethe-ansatz method. The critical line obtained from the exact solution shows a good agreement with the prediction of the RG result.
参考文献
[1] A. J. Daley, Adv. Phys. 63, 77 (2014).
[2] J. Dalibard et al., Phys. Rev. Lett. 68, 580 (1992).
[3] L. Riegger et al., Phys. Rev. Lett. 120, 143601 (2018).
[4] M. Nakagawa, N. Kawakami, and M. Ueda, arXiv:1806.04039 (to appear in Phys. Rev. Lett.).
第15回
講師:伊藤康介さん(浙江大)日時:11月21日(水)午後1時30分〜
演題:Generalized quantum measurements defining work distribution compatible with fluctuation theorems
要旨:Fluctuation theorems known as the Jarzynski equality [1] and the Crooks relation [2] recently have attracted much attention. They relate the work done by far-from-equilibrium dynamics to the difference in the equilibrium free energy. These fluctuation relations were also extended to quantum systems [3]. However, it turns out that the definition of the work in quantum systems is highly non-trivial [4] because the energy measurements that are inevitable to evaluate the fluctuating work necessarily cause non-negligible backaction. The quantum fluctuation theorems [3] were derived on the basis of the two-point projective measurements before and after the driving of the system. The projective measurement though is an idealized operation which is usually difficult to realize in practice. Thus, it would be important to know whether there are generalized measurements in the definition of the work that are still compatible with the quantum fluctuation theorems. Although it was concluded that the only possibility is the projective measurement in previous work [5], the considered measurements were not of the most general type, and also some arguments suffer from errors. As a result, that specification was incomplete as revealed by the present work. In this work, we rigorously obtain necessary and sufficient conditions on the generalized measurements for the universal validity of the quantum fluctuation theorems.
参考文献
[1] C. Jarzynski, Phys. Rev. Lett. 78, 2690 (1997).
[2] G. E. Crooks, Phys. Rev. E 60, 2721 (1999).
[3] J. Kurchan, arXiv:cond-mat/0007360 (2000), H. Tasaki, arXiv:cond-mat/0009244 (2000), S. Mukamel, Phys. Rev. Lett. 90, 170604 (2003), M. Campisi, P. Hanggi, and P. Talkner, Rev. Mod. Phys. 83, 771 (2011).
[4] E. Baumer et al., arXiv:1805.10096.
[5] B. P. Venkatesh, G. Watanabe, and P. Talkner, New J. Phys. 16, 015032 (2014).
第16回
講師:Andrew K. Harterさん(東大生研)日時:12月07日(金)午後1時30分〜
演題:Exploring PT-symmetric systems by use of quantum simulations
要旨:Parity-time (PT) symmetric lattices [1] with balanced, spatially separated gain and loss can provide an interesting theoretical framework to study a variety of uniquely non-Hermitian phenomena. In the previous decade there has been a lot of work done to explore the theory and applications (by experiment) of these systems. However, many challenges still remain. Practically, it can be difficult explore the dynamics of these systems in the PT-symmetry broken regime, where saturation often leads to limited experiment times. Furthermore, introducing balanced gain and loss poses a serious problem for truly quantum systems. I will discuss some possible avenues in which to address these problems utilizing 1) periodically driven (in time) Hamiltonians (cold atom systems and electrical circuits) and 2) matrix dilations, which can be realized in quantum simulators.
参考文献
[1] C. M. Bender and S. Boettcher, Phys. Rev. Lett. 80, 5243 (1998)
第17回
講師:Gong Zongpingさん(東大・上田研)日時:12月21日(金)午後1時30分〜
演題:Topological Phases of Non-Hermitian Systems
要旨:Recent experimental advances in controlling dissipation have brought about unprecedented flexibility in engineering non-Hermitian Hamiltonians in open classical and quantum systems [1]. A particular interest centers on the topological properties of non-Hermitian systems [2]. However, no systematic understanding in analogy with Hermitian topological insulators and superconductors [3] has been achieved. In this seminar, we introduce a coherent framework for classifying free-fermion-like non-Hermitian topological phases [4], within which we work out the periodic table for all the non-Hermitian systems with Altland-Zirnbauer symmetries in all dimensions. In particular, we find that a one-dimensional non-Hermitian lattice can be topologically nontrivial even without symmetry protection (class A), reminiscent of the quantum Hall insulator in Hermitian systems. The primary example is the Hatano-Nelson model [5], in which the emergence of the Anderson transition can be understood from a topological point of view. We will also discuss a remarkable observation that the time-reversal and particle-hole symmetries are unified [6], as well as some examples in other symmetry classes in zero and one dimensions.
参考文献
[1] R. El-Ganainy et al., Nat. Phys. 14, 11 (2018).
[2] M. A. Bandres and M. Segev, Physics 11, 96 (2018).
[3] A. P. Schnyder et al., Phys. Rev. B 78, 195125 (2008).
[4] Z. Gong et al., Phys. Rev. X 8, 031079 (2018).
[5] N. Hatano and D. R. Nelson, Phys. Rev. Lett. 77, 570 (1996).
[6] K. Kawabata et al., arXiv:1804.04676 (to appear in Nat. Commun.).
第18回
講師:金子和哉さん(東大・沙川研)日時:01月11日(金)午後1時30分〜
演題:Work Extraction from a Single Energy Eigenstate
要旨:Work extraction from the Gibbs ensemble by a cyclic operation is impossible [1], as represented by the second law of thermodynamics. On the other hand, recent studies revealed that a thermal equilibrium state can be represented not only by the Gibbs state, but also by a single energy eigenstate [2]. This is called the eigenstate thermalization hypothesis (ETH). We have unified these two perspectives by examining the possibility of extracting work from a single energy eigenstate. Specifically, we performed numerical exact diagonalization of a quench protocol of local Hamiltonians and evaluated the number of work-extractable energy eigenstates. We found that it becomes exactly zero in finite system size, implying that a positive amount of work cannot be extracted from any energy eigenstate, if one or both of the pre- and the post-quench Hamiltonians are non-integrable. This result suggests that the second law of thermodynamics is true even at the level of individual energy eigenstates if the system is non-integrable (i.e., quantum chaotic). It can be referred to as the eigenstate second law and is analogous to the ETH.
参考文献
[1] A. Lenard, J. Stat. Phys. 19, 575 (1978).
[2] L. D'Alessio, Y. Kafri, A. Polkovnikov, and M. Rigol, Adv. Phys. 65, 239 (2016).
[3] K. Kaneko, E. Iyoda, and T. Sagawa, arXiv:1809.01946.
第19回
講師:松崎雄一郎さん(産総研)日時:03月04日(月)午後1時30分〜
演題:Quantum remote sensing with asymmetric information gain
要旨:The standard aim of quantum sensing is to improve the sensitivity with quantum properties [1]. Here, we will introduce a novel quantum sensing scheme with a security inbuild, which exploits an entanglement as a resource [2]. We adopt a client-server model. The client needs to measure target fields from a sample, but he/she does not have a sensitive field sensor. The client delegates the sensing task to a remote server with a high-precision sensor. The sample is sent from the client to the server, and the server is assumed to be honest to the client while the server has the sample. The server interacts the sensor with the sample, and sends the information to the client, as the client suggests. In this case, the sensor stores every measurement data, and the information of the target fields is available both for the client side and the server side. This could cause a problem if the sensor is stolen by Eavedropper. Since the classical data in the sensor is not erasable, the information could be leaked to the Eavesdropper that could analyze the sensor. To overcome the problem, our proposed scheme provides an asymmetric information gain where the amount of achievable information at the client side can be much larger than that of the server side, which guarantees the security even if the sensor of the server is stolen. The server generates an entanglement between a quantum sensor and a flying photon, and the client will measure the photon by using the standard linear optics elements. Our scheme is feasible in the current technology.
参考文献
[1] C. L. Degen et al., Rev. Mod. Phys.89, 035002 (2017).
[2] Y. Takeuchi*, Y. Matsuzaki* et al., arXiv:1811.05586 (2018). *Equally contributed.