2018年度セミナー

今年度前期は水曜日午後1時(追記:午後1時30分に変更)からセミナーを行います。 このセミナーの他にも、毎週月曜日10時30分から本郷理学部4号館3階1320号室にて行われる統計力学セミナーにも参加しています。

日程 時間 講演者 演題・要旨
04月25日(水) 13:00
中村統太さん
(芝浦工大)
ガウスカーネル法を用いて生データから臨界点を求める、物理量を求める 要旨
05月02日(水) 13:00
藤田浩之さん
(東大・押川研)
トポロジカル光波による磁性体制御 要旨
05月09日(水) 13:00
池田達彦さん
(東大物性研)
Floquet-Bloch理論による固体高次高調波の定式化と解析 要旨
05月23日(水) 13:00
鳩村拓矢さん
(東大・宮下研)
量子アニーリングにおける断熱時間発展の加速 要旨
05月30日(水) 13:00
長谷川雅大さん
(東大・加藤研)
単一準位量子ドットを介した断熱ポンピングの理論解析 要旨
06月20日(水) 13:30
白井達彦さん
(東大物性研)
パーシステントホモロジーによるガラスの剛性のミクロな記述 要旨
06月27日(水) 13:30
山口裕樹さん
(東大・沙川研)
成体組織恒常性のマクロ非平衡理論 要旨
07月04日(水) 13:30
吉見一慶さん
(東大物性研)
スパースモデリングを用いた量子モンテカルロデータの解析接続 要旨
07月11日(水) 13:30
Savannah Garmon さん
(大阪府立大)
Non-Markovian dynamics revealed at the bound state in continuum 要旨
07月18日(水) 13:30
東川翔さん
(東大・上田研)
古典非線形方程式の Floquet-Magnus 展開と磁性体のダイナミクスへの応用 要旨

第01回

講師:中村統太さん(芝浦工大)
日時:04月25日(水)午後1時〜
演題:ガウスカーネル法を用いて生データから臨界点を求める、物理量を求める
要旨:臨界現象を解析する有限サイズスケーリング法をカーネル法を用いて自動化する手法が原田 [1] によって提案されている。この手法は、スケーリング解析以外にも様々な応用が考えられる。その一つとして、エネルギーや磁化の生データから直接、臨界点や臨界指数を求める手法 [2] をここでは紹介する。話のポイントは、生データを表現するモデル関数がガウス関数の重ね合わせとして求まることにある。転移点はモデル化出来ない特異点として求まり、モデル関数の微分から高次の物理量や臨界指数も求まる。
 まず、有限サイズスケーリング法と correction-to-scaling などの問題点について説明する。次に、カーネル法の導入を行い、スケーリング解析への応用をレビューする。その後、データのモデル化による解析法を紹介する。

参考文献
[1] K. Harada, Phys. Rev. E 84, 056704 (2011).
[2] T. Nakamura, Phys. Rev. E 93, 011301(R) (2016).

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第02回

講師:藤田浩之さん(東大・押川研)
日時:05月02日(水)午後1時〜
演題:トポロジカル光波による磁性体制御
要旨:高強度・超短パルスレーザーの発生技術の進歩により、光による物質の観測・制御の高度化が進んでいる。レーザー駆動で実現する強い非平衡状態の理解とその機能開発は、物性物理学におけるフロンティアの1つとして、実験・理論の両面から活発に研究が進められている。
 我々は、ガウシアンレーザーを前提としてきた従来の光物性物理学を、非自明な空間的トポロジーを持ったレーザー光であるトポロジカル光波の利用によって拡張する可能性を模索している [1-3]。トポロジカル光波、特に光渦は、2014年のノーベル賞の受賞対象となった STED 顕微鏡の基盤技術であり、光学分野において活発な研究が成されている。しかし、物性物理学分野においてはその実態が周知されておらず、光物性物理の研究者でさえ、円偏光レーザーと混同しているケースが多々見られる。我々はこれまで、光渦の特異な空間的構造を利用した、磁性体へのトポロジカル欠陥の書き込み [1] や、光渦が運ぶ軌道角運動量の磁性体への転写 [2] の可能性を模索してきた。また最近では、トポロジカル光波の一種である偏光渦を利用した新たな物性測定手法の開発 [3] に取り組んでいる。本セミナーでは、我々のこれまでの取り組みと今後の展望について発表する。

参考文献
[1] H. Fujita and M. Sato, Phys. Rev. B 95, 054421 (2017).
[2] H. Fujita and M. Sato, Phys. Rev. B 96, 060407(R) (2017).
[3] H. Fujita and M. Sato, Submitted.

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第03回

講師:池田達彦さん(東大物性研)
日時:05月09日(水)午後1時〜
演題:Floquet-Bloch理論による固体高次高調波の定式化と解析
要旨:高強度レーザーパルスを気体に照射すると発生する高次高調波は、典型的な非線形光学過程によって生じ、その発生機構やアト秒科学への応用について詳しく研究がなされてきた。近年、固体からの高次高調波発生が観測され [1]、その発生機構について活発に議論がなされている。
 本セミナーでは、まず時間・空間の周期性を反映したFloquet-Bloch波動関数 [2] を用いた固体高次高調波の理論の定式化 [3] について議論する。続いて簡単な模型を用いた高次高調波スペクトルの解析結果を示す。特に、高調波の次数が上がっても強度が落ちないプラトーの発生機構やカットオフ次数の振る舞いについて議論する。

参考文献
[1] S. Ghimire et al., Nature Phys. 7, 138 (2011).
[2] F. H. M. Faisal et al., Phys. Rev. A 56, 748 (1997).
[3] T. N. Ikeda, K. Chinzei and H. Tsunetsugu, in preparation.

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第04回

講師:鳩村拓矢さん(東大・宮下研)
日時:05月23日(水)午後1時〜
演題:量子アニーリングにおける断熱時間発展の加速
要旨:量子アニーリングとは組合せ最適化問題をヒューリスティックに解くアルゴリズムの一つである [1]。この手法はD-Wave Systemsによる実装以来、実社会への応用も含めて大いに注目を集めている [2]。実用性のためには短い時間で実行できることが重要になってくるが、量子アニーリングは断熱時間発展に基づいているため正しい解を得るためには十分にゆっくりと時間発展させる必要がある。断熱時間発展の加速と呼ばれる理論では、このような断熱時間発展を任意の速さであたかも実現しているかのように状態を制御することができる [4]。本セミナーでは断熱時間発展の加速に関する新たなアイデアとその量子アニーリングへの応用、またそれがどのようなときにうまくいくかについて発表する [5]。

参考文献
[1] T. Kadowaki and H. Nishimori, Phys. Rev. E 58, 5355 (1998).
[2] 例えば東北大学量子アニーリング研究開発室のナレッジベース「T-Wave」 [3] の解説記事集.
[3] ナレッジベース「T-Wave」.
[4] (レビューとして)E. Torrontegui, et al., Adv. At. Mol. Opt. Phys. 62, 117 (2013).
[5] T. Hatomura and T. Mori, in preparation.

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第05回

講師:長谷川雅大さん(東大・加藤研)
日時:05月30日(水)午後1時〜
演題:単一準位量子ドットを介した断熱ポンピングの理論解析
要旨:系の緩和時間よりもゆっくりと周期操作を行うことで、熱や電子を熱浴から熱浴へ運ぶ現象を断熱ポンピングという [1]。断熱ポンピングは、その駆動速度に依らず一周期でポンプされる熱や電子の量が一定であるという特性を持ち、特に量子ドット系での断熱ポンピングは、ナノスケール量子回路の電流標準等のデバイス応用が期待されている。断熱ポンピングの駆動速度は系の緩和時間によって制限されるため、デバイスとしての駆動を速くするためには、電子浴と量子ドット間の結合が強い領域で生じる緩和時間を短い量子ドットのコヒーレント輸送を利用すべきである。本セミナーでは、コヒーレント輸送領域における量子ドットを介した、断熱電荷ポンピングの理論研究について、特に以下の2つのテーマについて議論する。
  1. 量子ドット内の電子間にクーロン相互作用が働く場合に生じる電子相関効果がどのようにポンピングに影響するか? [2]
  2. 電子浴のバンド構造はポンプ電荷の量子化される値をどのように変化させるか? [3]

参考文献
[1] D. J. Thouless, Phys. Rev. B 27, 6083 (1983).
[2] M. Hasegawa and T. Kato, J. Phys. Soc. Jpn. 87, 044709 (2018).
[3] M. Hasegawa, É. Jussiau, and R. S Whitney, in preparation.

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第06回

講師:白井達彦さん(東大物性研)
日時:06月20日(水)午後1時30分〜
演題:パーシステントホモロジーによるガラスの剛性のミクロな記述
要旨:ガラスの剛性とミクロな構造との関係について議論する。ガラス状態は、ある程度長い空間スケールでは不規則な構造をとるように見える。その一方で局所的なクラスター構造によってガラス状態を特徴づける可能性が指摘されている [1]。この構造は液体状態とは異なるため、ガラスの剛性の起源との関係が期待される。
 本セミナーでは、まずそのクラスター構造を特徴づけるための手法として、近年提案されたパーシステントホモロジーと呼ばれる手法について説明を行う [2]。次に、その手法を用いて得られた、応力・歪み曲線とミクロな構造との関係について紹介する。本研究は中村氏(産総研)との共同研究である [3]。

参考文献
[1] H. W. Sheng, W.K. Luo, F.M. Alamgir, J.M. Bai and E. Ma, Nature 439, 419 (2006).
[2] 「タンパク質構造とトポロジー:パーシステントホモロジー群入門」平岡裕章 / Y. Hiraoka, T. Nakamura, A. Hirata, EG Escolar, K. Matsue and Y. Nishiura, PNAS 113, 7035 (2016).
[3] T. Shirai and T. Nakamura, arXiv:1712.09785

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第07回

講師:山口裕樹さん(東大・沙川研)
日時:06月27日(水)午後1時30分〜
演題:成体組織恒常性のマクロ非平衡理論
要旨:哺乳類成体組織では細胞が絶えず入れ替わっており、細胞分裂と細胞死の釣り合いにより組織が維持される(恒常性)。この釣り合いがどのような機構により維持されるのかはほとんど理解されていなかったが、近年の実験技術の発展により、その一端が明らかになってきている。Clayton らは細胞染色実験とスケーリング理論から、細胞自律的に恒常性が維持されるとした [1]。さらに最近になって、Mesa らはライブイメージング法を用いて、隣接細胞間の相互作用により恒常性が維持されると報告している [2]。我々は、細胞密度によるフィードバックにより恒常性維持機構を定式化し、マクロ非平衡確率過程として記述した。細胞間相互作用の到達距離が有限の場合に、細胞集団ダイナミクスが短時間領域における細胞自律的な振る舞いから動的クロスオーバーし、長時間領域の振る舞いは voter モデルにより記述されることを明らかにした [3]。
 本講演では、まず近年の実験により明らかになった成体組織恒常性における細胞集団ダイナミクスの統計則と非平衡統計力学モデルの関係をまとめる。次に、恒常性における細胞多体系をマクロな非平衡確率過程として定式化し、数値解析の結果として動的クロスオーバーを示した上で、長時間極限における有効ダイナミクスが voter モデルにより記述されることを説明する。

参考文献
[1] E. Clayton et al., Nature 446, 185 (2007).
[2] K. Mesa, K. Kawaguchi et al., bioRxiv:155408 (2017).
[3] H. Yamaguchi, K. Kawaguchi and T. Sagawa, PRE 96, 012401 (2017).

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第08回

講師:吉見一慶さん(東大物性研)
日時:07月04日(水)午後1時30分〜
演題:スパースモデリングを用いた量子モンテカルロデータの解析接続
要旨:多体電子系やスピン系に対する量子モンテカルロシミュレーションでは、虚時間データを実振動数へと解析接続することで、一粒子スペクトルや磁気励起スペクトルなどの動的物理量が得られる。一方、解析接続で解くべき方程式は、悪条件であることが知られており、その解はノイズに非常に影響をうける。したがって、統計誤差を含むモンテカルロデータの解析接続では、信頼うる結果を得ることが困難となる。この問題を解決するため、最大エントロピー法や統計的手法を用いた解析法などが提案されているが、決定的な解析手法はまだ確立されていない現状にある。
 近年、我々はスパースモデリングを応用した解析接続法を提案した [1]。スパースモデリングは多変数の最適化問題に対して、本質的なパラメーターのみを選択することで、過学習を避けた予測を可能とする手法である。 本手法を虚時間データの解析接続に用いることで、自動的にノイズからの影響が少ない基底(圧縮基底)を選択し、ノイズに強い解析接続を行う。講演では、スパースモデリングの導入と量子モンテカルロデータの解析接続への応用に加え、本手法を実装したオープンソースソフトウェア SpM [2] について紹介する。さらに、最近取り組んでいる圧縮基底を応用した計算手法、また関連ソフトウェアの開発状況についても併せて簡単に紹介する予定である [3]。

参考文献
[1] J. Otsuki, M. Ohzeki, H. Shinaoka, and K. Yoshimi, Phys. Rev. E 95, 061302(R) (2017)., 固体物理 vol. 53, No. 4, 大槻純也・大関真之・品岡寛・吉見一慶.
[2] https://github.com/j-otsuki/SpM.
[3] H. Shinaoka, J. Otsuki, M. Ohzeki, and K. Yoshimi, Phys. Rev. B 96 , 035147 (2017).
     H. Shinaoka, J. Otsuki, K. Haule, M. Wallerberger, E. Gull, K. Yoshimi, and M. Ohzeki, Phys. Rev. B 97, 205111 (2018).
     N. Chikano, J. Otsuki, and H. Shinaoka, arXiv:1803.07257 (2018).

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第09回

講師:Savannah Garmon さん(大阪府立大)
日時:07月11日(水)午後1時30分〜
演題:Non-Markovian dynamics revealed at the bound state in continuum
要旨:We propose a methodical approach to controlling and enhancing deviations from exponential decay in quantum and optical systems by exploiting recent progress surrounding another subtle effect: the bound states in continuum, which have been observed in optical waveguide array experiments within this past decade. Specifically, we show that by populating an initial state orthogonal to that of the bound state in continuum, it is possible to engineer system parameters for which the usual exponential decay process is suppressed in favor of inverse power law dynamics that are typically extremely difficult to detect in experiment. We demonstrate our method using a model based on an optical waveguide array experiment, and further show that the method is robust even in the face of significant detuning from the precise location of the bound state in continuum.

参考文献
[1] E. Torrontegui, J. G. Muga, J. Martorell, and D. W. L. Spring, Adv. Quant. Chem. 60, 485 (2010).
[2] C. W. Hsu, B. Zhen, A. D. Stone, J. D. Joannopoulos, and Soljačić, Nat. Rev. Mater. 1, 16048 (2016).
[3] S. Weimann, Y. Xu, R. Keil, A. E. Miroshnichenko, A. Tunnermann, S. Nolte, A. A. Sukhorukov, A. Szameit, and Y. S. Kivshar, Phys. Rev. Lett. 111, 240403 (2013).
[4] S. Garmon, T. Petrosky, L. Simine, and D. Segal, Fortschr. Phys. 61, 261 (2013).

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第10回

講師:東川翔さん(東大・上田研)
日時:07月18日(水)午後1時30分〜
演題:古典非線形方程式の Floquet-Magnus 展開と磁性体のダイナミクスへの応用
要旨:近年非共鳴周期外場による孤立量子系のデザインとコントロール、いわゆる Floquet engineering が大きな注目を集めている [1,2]。これは Floquet の定理によって非平衡系の問題が平衡系の問題に帰着され、Floquet-Magnus 展開により対応する平衡系の解析が簡単化されるためである。一方で、古典系における Floquet-Magnus 展開は Hamilton 系などの量子系との対応が単純な系でしか知られていない [3]。これは古典(開放)系の支配方程式は一般に非線形であり、かつ有限温度の場合はランダム変数により周期的でさえなくなるため、Floquet の定理が適用できないためである [2]。このため、古典系においても Floquet-Magnus 展開のような系統的な摂動展開が存在するのかどうかは非自明な問題だった。
 この問題に対して、我々は(確率)微分方程式で記述される古典(開放)系に対する Floquet-Magnus 展開を構成した [4]。ベンチマークとして磁性体のダイナミクスの現象論的方程式である確率的 Landau-Lifshitz-Gilbert 方程式の数値計算を行い、Floquet-Magnus 展開から得られる有効的な確率的 Landau-Lifshitz-Gilbert 方程式が、高周波領域で元の方程式のダイナミクスをよく近似できることを確かめた。特に、有効的な方程式は短時間のダイナミクスだけでなく長時間後の非平衡定常状態も定量的に近似できており、孤立量子系とは対照的に古典開放系の Floquet-Magnus 展開は収束級数となっていることが示唆される。
 本研究は藤田浩之氏(東大物性研・押川研)、および佐藤正寛氏(茨城大)との共同研究である。

参考文献
[1] A. Eckardt, Rev. Mod. Phys. 89, 011004 (2017).
[2] M. Bukov, L. D'Alessio, and A. Polkovnikov, Advances in Physics 64, 139 (2015).
[3] T. Mori, arXiv preprint arXiv:1804.02165 (2018).
[4] S. Higashikawa, H. Fujita, and M. Sato, in preparation.

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