3つの壁

1つのテーマの研究を始めてから終えるまでには、大まかに言って3つの壁があると思います。 当研究室では、この3つの壁を乗り越えられるように丁寧に指導していきます。

第1の壁:問題と答えを設定する

この壁は学生の皆さんでも容易に想像がつくでしょう。 つまりどうやってテーマを選ぶかです。

どんな研究も「問題」と「答え」がセットになっています。 まず、学会に参加したり最新の論文を読んだりして、他の研究者がどのような「問題」に興味を持っているか、そしてそれに対してどのような「答え」を与えているかを勉強します。 それを整理していく中で、これまで誰も設定していなかった「問題」、そして誰も予想していなかった「答え」を見つけるのです。 「どんな問題なら他の人が興味を持ってくれるだろうか、どんな答えを出せば他の人が驚いてくれるだろうか」と想像の翼を羽ばたかせます。

この壁を乗り越えやすいように、当研究室ではM1から学会に参加してもらい、また、いろいろな論文を紹介したりしています。

第2の壁:実際に問題を解く

実はこの壁が一番大きな壁ですが、研究を未体験の皆さんには、その大きさが想像できないかも知れません。

問題を解くにはいろいろな方法があります。 例えば解析的な計算、場の理論的計算、数値計算などなど、そして数値計算でも例えばモンテカルロ計算、数値的繰り込み群計算、厳密対角化などなど。 皆さんが選んだ問題に対してどの方法が最適なのかは、実際に試してみないとわかりません。 それぞれの方法を試すにはそれなりに時間がかかります。 しかも、試してみたら駄目だったということも何度も起こります。 そのような試行錯誤はつらい作業です。

この壁を乗り越えやすいように、当研究室では研究の技術的なことを細々と指導します。 時には数値計算のプログラムを見てアドバイスすることもあります。

ここで皆さんに注意して欲しいことがあります。 決して一人で悩まないこと。 この壁を一人で乗り越えようとして挫折する人がたくさんいます(特に完璧主義者の人に多い)。 しかし、どんなにすばらしい研究者でも、一人で壁を乗り越えられる人はいません。 誰しも、共同研究者と、同僚と、先輩と、後輩と、議論しながら壁を乗り越えていくのです。 ですから、この壁に当たったら、私や研究室のみんなにどしどし相談しましょう。 「もう少し話がまとまってから相談しよう」と決して考えないで下さい(特に完璧主義者の人に多い!)。 話をまとめるためにこそ、相談するのですから。

答えがまとまっていない段階で他の人に話をするのは勇気がいることかも知れません。 しかし、研究しているテーマが新しければ新しいほど、答えは出にくいのです。 答えが出ないことは恥ずかしいことでは全くありません。 途上の研究を他の人にためらいなく相談できることも、研究者の重要な能力の一つです。

第3の壁:ストーリーをまとめる

最後の壁は、得られた「答え」を論文にまとめたり、学会発表したりする際の壁です。

第2の壁を乗り越えれば、ゴールが見えてきます。 しかし、いざそれを全くの他人に説明しようとすると、いろいろな所が抜けていることに気づくでしょう。 たとえば、他のパラメータ値についても計算を追加しなければいけない、例外がないか考えを巡らせなければいけない、などなど。 ゴールが見えているだけに焦れったい作業ですが、これを乗り越えなければ、他の人が納得する研究になりません。

この壁を乗り越えやすいように、当研究室では論文の校正や学会発表の練習を綿密に行っています。