研究内容

 

ここでは、研究内容についておおまかに説明いたします。


私の研究は、多体エンタングルメントの定量化、と呼ばれるジャンルの研究になります。

そこで、まずエンタングルメントの定量化がどんな研究なのかを説明します。量子系では、部分の合計が全体にならない、不可分性をもつ状態が存在する事が知られています。

例:

エンタングルメントは、こうした不可分性の程度を表す為の指標のことを指します。すなわち、エンタングルメントの定量化、とは、量子系の不可分性の定量化を意味します。

 

LOCCとはlocal operation and classical communication の略で、局所的な観測とユニタリ操作、その結果を伝え合う為の古典通信を許し、大域的な観測やユニタリ操作を許さない、という操作です。(右図)

この不可分性の性質を調べる為に有効なツールとして用いられてきたのが、LOCCと呼ばれる思考実験です。



不可分性は非局所的な性質である為、行う操作を局所操作に限定して、局所操作で系がどのように変化するかを調べる事はとても重要になります。



LOCCは観測を含むので、通常観測結果によって分岐が発生します。

しかし、最終的にただひとつの状態に帰着できるようなLOCCも存在します。これをdeterministic LOCCと呼びます。

deterministic LOCCは、変換前後の状態が一通りなので、各状態間の順序構造を調べるのに役立ちます。



このdeterministic LOCCの性質を用いて、二体のエンタングルメントの定量化はなされました。

・二体間エンタングルメントの量は、片方の粒子のフォンノイマンエントロピーで測る事ができる[1]

・エンタングルメントの総量を保ったまま、deterministic LOCCによって圧縮・解凍ができる[1]

(右図)



二体での成功に対して、三体以上の多体系でのエンタングルメントの定量化は現在、あまり成功しているとは言いがたい状況にあります。この、「三体以上の定量化」が私の研究テーマです。

上の二つの結果は、二粒子系のdeterministic LOCCで、ある状態から別の状態に移る事が可能か否かを判定する必要十分条件から導く事ができます。[2]

より多くの粒子を持つ系に対し、この必要十分条件を導くことが

できれば、多体におけるエンタングルメントの定量化は可能であると考えられます。

そこで私は、このdeterministic LOCCの必要十分条件を3-qubit pure stateについて求めました。[3]

これは3体以上の多体系で、初めての完全に一般的な必要十分条件の導出になっています。


この必要十分条件の導出は、従来のアプローチと異なり、多体のエンタングルメントが持つグラフ構造を利用して行われました。

その際の副産物として、さらに三つ、良い結果を得る事が出来ています。[3]

1. エンタングルメントが観測によって、グラフ構造上をどのように移動・散逸するかの定量的法則。例えば、qubit Aを観測すると、AB間、AC間、ABC間のエンタングルメントはα倍(0≦α≦1)され、ABC間で失われたエンタングルメントの一部がBC間に流れ込みます。(下左図)

2. deterministic LOCCの最小回数の発見。deterministic LOCCが高々三回の観測で実現できる事を示し、いくつかの場合に分ける事でそれぞれの最小回数を明らかにしました。(下右図)

3. 「エンタングルメントの電荷」の発見。以下の三つの性質を持つ物理量を発見しました。

  ・局所ユニタリ操作に対して不変

  ・離散的な値をもつ

  ・状態の複素共役変換で正負が反転する

[1]C. H. Bennett, H. J. Bernstein, B. Schumaker, and S. Popescu, Phys. Rev. A 53, 2046

[2]M.A. Nielsen, Phys. Rev. Lett. 83, 436

[3]H.Tajima arXiv:1012.1676