修士課程で学ぶこと | 博士課程て学ぶこと |
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特に理論志望の学生の中に、例えば「場の理論を勉強したい」というようなことを言う人を時折みかけます。 それは既に完成されて美しい形をした理論体系、難しい教科書に載っているような内容を自分もマスターしたいということに他なりません。 これは「勉強」であって「研究」ではないことに注意して下さい。
「研究」とは、空白だらけで、本当に答えがあるかどうかもわからないパズルと格闘することなのです。 さまざまな苦しい試行錯誤の果てにようやく結果が得られます。 でも、他に先駆けて結果を出したということを研究者は喜びとするのです。 「研究」と「勉強」のこのような違いを正しく認識することが、大学院生活の第1歩です。
どんなに独創的な研究でも、かならずその時代に他の研究者が興味を持つような問題が設定されているからこそ評価されます。 また、「問題」は常に「答え」とセットになっていなければいけません。 面白い答えが予想されるからこそ、面白い問題なのです。
問題を設定するのは、簡単なことではありません。 学会やセミナーなどに参加して積極的に他の研究者と交流し、「この人たちに興味を持ってもらうには、どんな問いかけをすればいいだろう、そして、どんな答えを与えればいいだろう」と意識することを学びましょう。
「事件」から「解決」を導き出すための「推理」にの中に、誰も思いつかないような意外なブレークスルーがなくては、おもしろい推理小説とは言えません。 研究も同じです。しかし当然ながら、ブレークスルーを生み出す作業は苦しいものです。 研究には本質的に新しい結果が入っていなければいけません。 「新しい」ということは、今まで誰も思いついていないと言うことです。 どんな天才でも、新しいことを思いつくまでには、多くの時間が必要です。 その間のほとんどが試行錯誤の連続なのです。 しかし、これを乗り越えなければ、後に残る研究にはなりません。
また、完成直前の地道な作業も苦しいものです。 全体が矛盾のない説得力あるストーリーになるよう、最初の構想では抜けている細部を全て補わなければいけません。 また、他の研究者にしっかりと納得してもらえるように、時にはつまらない結果を与える可能性まで尽くして議論しなければいけません。
この苦しみを乗り越えてこそ、世界にアピールできる研究となるのです。 それを信じて地道な作業に耐えることを経験するのも、大学院で学ぶべき重要な要素です。
まず、論文はもちろん英語で書きます。 したがって英作文の技術を身につけなければいけません。 物理の英語は、文法的にそれほど凝ったものではありません。 ただ、日本語と違って各文の主語を明確にするなどの特徴があります。 例えば「〜がある」は、受験英語で習う "There are ..." よりも "We have ..." のように "We" を主語とした方が、ぐっと英語らしくなります。 また、接続詞や関係代名詞で長く続けず、なるべく短い文を重ねるとリズムがよくなります。 論文などで英語の文章をなるべくたくさん読むと、次第に感覚が身に付いてくるでしょう。
次に、学会発表の技術は、研究発表に限らず日常のいろいろな場面で役に立つので、是非、身につけましょう。 物理の発表は主にOHPか液晶プロジェクタを使い、スクリーンに次々と式やグラフを映して説明します。 スライドには長い文章を書かずキーワードに限る、図を使って視覚に訴えるなどの点を注意します。 また必ず聴衆に体を向けて話します。 ついついスクリーンの方を見ながら説明してしまいますが、これは悪い癖です。 右利きの人はスクリーンの左、左利きの人はスクリーンの右に立つと、利き腕で指示棒を使いながら聴衆の方を向くことができます。
最後に、論文と発表に共通する注意点として話す順番の決め方があります。 日本では、話のまとめ方として必ず「起承転結」を学びますが、これは少なくとも現代の科学論文や学術発表としては悪いまとめ方です。 「起承転結」にまとめられた話は、特に欧米人には理解してもらえないでしょう。 一番最初に「起」、つまり「問題設定」が来るのは当然ですが、その次には「結」、つまり「問題」に対してどのような「答え」を与えようとしているのかを予 告しましょう。 その次に、「なぜなら...」と続けて、「問題」と「答え」の間をどのように結ぶかを説明します。 これが、集中して理解しやすい順番です。
また、それは自らの研究者としての将来にも関わってくるでしょう。 大学院で研究したことを一生研究し続けていけるほど、物理の発展はゆっくりしてはいません。 研究者になれば、どこかの時点で全く新しいテーマへと乗り出していく必要に迫られるでしょう。 そのとき、他の研究者との議論で培った直感と理解力は大いに助けとなることでしょう。