講師:山本倫久(やまもとみちひさ)さん(樽茶研)
タイトル:表面弾性波を用いた離れた量子ドット間の単一電子移送
概要:固体中の伝導電子は、他の電子が充満しているフェルミ面上を伝播する。その伝播過程において、各電子が持っている量子力学的な情報は、電子間の強い相互作用によって急速に失われてしまう。 従って、電子を伝導させながらその状態を制御する量子光学的な実験は、固体中の電子では難しいと考えられていた。 しかし、それが可能になれば量子情報を固体中で自由に伝送させることが可能になり、量子情報素子の集積化への道が大きく開ける。
本研究では、単一電子を量子ドットから取り出し、周囲の電子から完全に孤立させて遠く離れた量子ドットへと移送することに初めて成功した(S. Hermelin et al., Nature 477, 435 (2011))。 移送中の電子が周囲の電子から隔離されていることと、電子移送に要する時間が電子スピンの緩和時間に比べて遥かに短いことから、単一電子スピンがコヒーレントに移送されていると考えられる。 更に、片方の量子ドットに2個の電子を用意してから1個のみを遠く離れた量子ドットへと移送することもできた。 これは、量子力学的な相関を持つ2電子が空間的に分離された非局所的な量子もつれ状態の生成に相当すると考えられる。 こうした技術によって、電子スピンを用いた量子情報素子の集積化や、単一電子レベルでの量子光学実験が可能になると考えられる。