題目: 「Entanglement of unitary transformed thermal stets in liquid state NMR with chemical shift」 アブストラクト: 液体状態NMRを利用した量子計算機は今日までで最も成功した 量子計算機に対する物理モデルである. 一方, Braunstein ら[1] により, 現状の実験ではそこでの典型的な状態である擬純粋状態はセパラブル (すなわち, 量子絡み合いがない状態)であるという指摘がされた. 彼らの 研究以降, このモデルにおけるエンタングルメントの役割, あるいは 量子計算そのものにおけるエンタングルメントの役割が議論されている. 最近, Yu, Brown, Chuang [2]は液体状態NMR 量子計算機 (以下, NMR QC と呼ぶ)において熱平衡状態から量子ゲートの作用によりどれだけエンタングル メントを抽出しうるかについて研究した. 熱平衡状態は全量子ビット数と状態の 偏極度 (量子ビットに相当する核スピンのZeeman エネルギーと系の温度の比 で与えられる) と呼ばれる2個の物理的なパラメーターにより特徴づけられ, それらの任意の値に対してセパラブルである. 以下, 変換後の状態を$\rho_{B}$ と書こう. 彼らの結果のうち主要なものは, 擬純粋状態より$\rho_{B}$ の方が 容易にエンタングル状態となる, すなわち前者がセパラブルであるような パラメーターの値であっても後者はエンタングル状態となる, という点である. ここで, NMR QCでもっとも自然な状態は熱平衡状態であり, かつ擬純粋状態 もそれに適当な量子演算を施すことにより得られるという点に注意しよう. すなわち, NMR QCでは熱平衡状態は擬純粋状態より基本的な状態といえ, 彼らはこうした状態から抽出可能なエンタングルメントについて考察した. 本研究では, より一般的なモデルについて解析的に$\rho_{B}$ がエンタングル 状態となるようなパラメーター領域をもとめる. 具体的には, 我々のモデルには 化学シフトの効果が含まれている. 先行研究[2] では量子ビットに対応する核スピン のZeeman エネルギーの値は全て等しいと仮定している. しかし, このことは個別 の量子ビットを制御できないことを意味する. すなわち, 現実的なモデルではない. ここでは特に, セパラブル状態とエンタングル状態の境界を与える物理パラメーター の値に化学シフトの効果はほとんど現れないことを示す. さらに, 彼らが用いた エンタングルメントの評価法, D\"ur--Ciracの評価法 [3]に問題があることも 指摘し,その解決方法についても議論する. [1] S. L. Braunstein, C. M. Caves, R. Jozsa, N. Linden, S. Popescu, and R. Schack, Phys. Rev. Lett. 83, 1054 (1999). [2] T. M. Yu, K. R. Brown, and I. K. Chuang, Phys. Rev. A 71, 032341 (2005). [3] W. D\"ur and J. I. Cirac, Phys. Rev. A 61, 042314 (2000).