磁壁の電流駆動におけるクリープ現象の理論

最近,強磁性半導体(Ga,Mn)Asにおける磁壁の電流駆動に関して,低電流バイアス領域における磁壁の緩やかな移動が測定された[1].このような外力に対する界面の非線形応答は一般にクリープと称され,強磁性体の磁壁に限らず強誘電体の相境界,超伝導体中の渦格子や電荷密度波など様々な物理系で実現されている.磁壁のクリープは,これまで金属強磁性体において磁界駆動の場合[2]が主に研究されてきたが,電流駆動による磁壁クリープは[1]がはじめての報告例となっている.クリープの一般論に従うと,低電流領域において磁壁速度vは電流密度jに対して ln(v/v_c) = a + b*j^μ の依存性を持つことが期待される.ここでa,b,v_cは電流に依存しない正の係数であり,指数μはクリープの外力(ここでは電流)への依存性を特徴付けるパラメータである.(Ga,Mn)Asを用いた実験[1]ではμ=1/2という値が得られており,これはCo薄膜を用いた磁壁の磁界駆動によるクリープの報告例[2]におけるμ=1/4と異なる.我々は、乱れによる磁壁の変形と磁性体の交換相互作用の効果を,電流??よって生じるスピン移行トルクと共に考慮した結果,実験と同じクリープ指数を得た.また,係数a,bの温度依存 性も同時に測定されているため,平均場近似の範囲内で理論予測と実験結果の比較を行う。
[1] M. Yamanouchi, et al., Phys. Rev. Lett. 96, 096601 (2006).
[2] S. Lemerle, et al., Phys. Rev. Lett. 80, 849 (1998).